3粒の栗

ここに店が建つずっと前、我家には栗の木がありました。

季節になると、「コーン。」と屋根にぶつかって落ちる栗の音がしました。

夜遅くでも気になって、懐中電灯を持ち落ちた栗の実を捜すのが好きでした。
草の陰に、ピカっと光るツヤツヤの栗の実を見つけるのです。

 ~*~*~

小学校から帰って、私はボーっと栗の木の下で実が落ちてくるのを
待っていました。
ふと気が付くと、見かけない小さな女の子が少し離れて同じようにしゃがみこみ
こちらを見ています。
お隣に、子供の居ないご夫婦が住んでいました。
親戚のようなお付き合いで、私はよく遊びに行っていたのですが
そこで、しばらく女の子を預かる、という話を思い出しました。
「あ、この子のことか。」

目が合うと、嬉しそうにニッコリ笑いました。
名前を聞くと、「ちーちゃん」と答えました。

ちーちゃんと私は、しばらく栗拾いをしました。
でもイジワルな私は、たとえ小さな子でも栗を譲るのが嫌で
落ちると即走りました。ちーちゃんは、それを私が遊んでくれていると
勘違いしてキャッキャと喜びながら一緒に走ります。

それでも一個もあげないわけにはいかないので、イガから栗を
出してあげたりしました。両足を使ってイガを開くのです。
口を開けたイガの中には、向かい合った栗と真ん中に薄っぺらい栗の
出来損ないみたいなのが入っています。(あれは、なんと言うのでしょう?)
ちーちゃんは、珍しそうに見ていましたっけ。

しばらくして暗くなったので
「もう、帰ろうね。」と言うと ちーちゃんはコックリうなずいて
「はい。」と持っていた栗を差し出しました。
びっくりしました。
おばちゃんから、「栗はお隣の木だから、拾ってはいけないよ。」と
言われていたらしいのです。

「それは、ちーちゃんが拾ったのだから持って行って良いんだよ。」
と言うと、本当に嬉しそうに笑って胸に抱いて帰って行きました。

その後、何日もしないでちーちゃんは東京へ戻っていきました。
私はまだ幼かったので、また来年同じ季節にちーちゃんは来るのだと、
その時はいっぱい拾わせてあげよう、と思いました。

でも、次の年、ちーちゃんは来ませんでした。

雪が降る頃、おばちゃんに聞きました。
「ねぇ、ちーちゃんはいつ来るの?今年は来ないの?」
おばちゃんは、急に泣き出しました。

ちーちゃんは、東京へ戻って間もなく肺炎にかかり亡くなったそうです。
まだ3歳でした。

「あこちゃんと、栗拾いしたのがとっても楽しかったと言っていたんだよ。」
おばちゃんが教えてくれました。
何故、私の分もあげなかったんだろう。
どうしてか、私の分もあげていればちーちゃんは助かったかもしれないと
頭の中で思ったのです。

ちーちゃんの可愛らしい顔を、ボンヤリとしか覚えていません。
でも、「ハイ」と差し出した栗が3粒乗ればいっぱいいっぱいだった小さな手は、
今でも鮮明に覚えています。

   ~*~*~

優しかったおじちゃんは亡くなり、今、おばちゃんは養老院に入っています。
記憶が曖昧になった今でも、私のことは「あこちゃん」と呼びます。
私の娘だけ行っても「あこちゃん」らしいです。

ちーちゃんの手に乗ったツヤツヤの3粒の栗は鮮明でも、
おばちゃんを見るとやはり時間が経ったのだなぁ。。と感じます。
by primaatsuko | 2007-02-23 23:19 | 3日坊主のprima日記 | Comments(8)
Commented by なすび at 2007-02-24 02:38 x
私が一番乗りでなんだか申し訳ないけど、、、いい話を聞かせてもらって、ありがと。
Commented by meme at 2007-02-24 05:54 x
絵本の世界にひきこまれるように、あなたの姿や、栗を拾う二人の少女、そしてあなたに話して聞かせるおばあちゃんの姿が何枚かの絵になって見えてきましたよ。心打たれるお話でした。
Commented by primaatsuko at 2007-02-24 12:54
☆なすびさん
お元気でしたか^^
私が初めて経験した、身近な人の死でした。
子供モデルにしたいくらい可愛い子だったことを覚えています。
Commented by お祭り男 at 2007-02-24 12:55 x
いいお話ですね♪

小さい頃の祖母の実家にあった栗の木を思い出しました。。。
幼馴染の友達・・・今どうしてるかな~
Commented by primaatsuko at 2007-02-24 12:57
☆memeさん
おばちゃんとは、そのあとちーちゃんの話はしないように
しました。必ず泣かせてしまうので。
おばちゃんの住んでいた家は、4階建てのビルになってしまったし。
Commented by primaatsuko at 2007-02-24 13:01
☆お祭り男さん
栗や柿や梅や、私達の時代はそういうものに囲まれていて
幸せでしたね。たった一本の木から教わることたくさんありました。
Commented by 絵丸 at 2007-02-26 14:01 x
ぷりーまさん!私もmemeさんと同じで絵本の中に入っていったように情景を思い、ぷりーまさんの子供の素直な気持ちなど・・思いながら・・私の頭の中は、可愛いあこちゃんとちーちゃん。落ち葉色とスモークの色が、・・・。忘れないですよね。・・・そして続いていく思い。
Commented by primaatsuko at 2007-02-26 16:18
☆絵丸さん
なぜか記憶に残った小さな出来事で。
神様が、覚えておきなさい、と言ったのでしょうね^^